この記事でわかること
- 家賃を払っているかどうかで、必要な手続きがまったく変わること
- 相続人の一人が住んでいる場合、当然には明け渡しを求められないこと
- 立退料の「相場」が示せない理由と、金額を左右する要素
- 明け渡しを待たずに売るという選択肢があること
相続した実家に、弟がそのまま住んでいる。亡くなった親の面倒を見ていた親族が出ていってくれない。固定資産税だけはこちらが払っている。こうしたご相談は珍しくありません。
話を進める前に、確かめなければならないことが一つあります。その人が、どういう立場で住んでいるのかです。ここを間違えると、進め方も、かかる時間も、費用もすべて変わります。
先に結論
家賃を払っていないなら使用貸借で、借地借家法の正当事由は要りません。払っているなら賃貸借で、明け渡しのハードルは大きく上がります。そして相続人の一人が住んでいる場合は、そもそも当然には明け渡しを求められません。いずれの場合も、明け渡しを待たずに売る方法はあります。
まず「家賃を払っているか」を確かめる
無償で貸している状態を、法律では使用貸借と呼びます(民法593条以下)。ここには借地借家法が適用されません。借地借家法は家賃を払って住む人を守る法律なので、無償で住んでいる人には及ばないためです。
3つの立場で、何がどれだけ変わるか
| 使用貸借 | 賃貸借 | 相続人の一人 | |
|---|---|---|---|
| どんな状態か | 無償で住んでいる | 相場に近い家賃を払っている | 共同相続した家に住んでいる |
| 根拠になる法律 | 民法593条〜598条 | 借地借家法 | 民法249条ほか(共有) |
| 正当事由 | 不要 | 必要(28条) | — |
| 明け渡しの考え方 | 契約の終わり方による | 正当事由が認められて初めて可能 | 当然には求められない |
| 金銭の話 | 事案により。法律上の義務ではない | 立退料が正当事由を補う要素になる | 持分を超える使用分の対価を請求できる |
| 難易度 | 中 | 高い | 高い |
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使用貸借は、どう終わるのか
使用貸借は、貸したときの約束の仕方によって終わり方が変わります。
期間を定めたときは、その期間が満了することで終了する。期間を定めず使用収益の目的を定めたときは、借主がその目的に従って使用収益を終えることで終了し、終えていなくても、足りる期間を経過したときは貸主が解除できる。期間も目的も定めなかったときは、貸主はいつでも解除できる。また、使用貸借は借主の死亡によって終了する。
実際のご相談で多いのは「期間も目的もはっきり決めていない」ケースです。この場合、条文の上では貸主からいつでも解除できることになります。ただし、長年住み続けている相手に突然出ていけと求めることが、権利の濫用にあたると判断される余地は残ります。条文どおりに一方的に進められると考えないほうが安全です。
あわせて読みたい祖父名義のまま相続登記していない土地を売るそもそも相続人が何人いるのか。数え方はこちらにまとめています。
相続人の一人が住んでいる場合は、話が別になります
共同で相続した家に、相続人の一人が住んでいる。これが最も多いかたちで、そして最も誤解されています。
共有している不動産は、共有者であれば持分の割合にかかわらず、その全部を使うことができます(民法249条1項)。そのため、他の相続人は、当然には明け渡しを求めることができません。「自分にも持分があるのだから出ていってもらえるはずだ」という考え方は、この場面では通りません。
ただし、2023年4月に施行された改正で、共有物を使っている共有者は、自分の持分を超える使用の対価を他の共有者に支払う義務を負うことが条文に明記されました(民法249条2項)。家賃相当額のうち、自分の持分を超える部分です。別段の合意があればそちらが優先します。
進め方としては、次のどれかになります
- 遺産分割で、住んでいる人がその家を取得し、他の相続人に代償金を払う
- 全員が合意して家を売り、代金を分ける(換価分割)
- 合意できない場合、家庭裁判所の遺産分割調停・審判へ
- 自分の持分だけを売る
絶対にやってはいけないこと
鍵を替える、荷物を出す、電気や水道を止める
いずれも違法です。たとえ名義がご自分であっても、住んでいる人の意思に反してこれをやると、損害賠償を求められるだけでなく、住居侵入罪や器物損壊罪に問われることがあります。法律は、自分の権利を自分の力で実現すること(自力救済)を原則として禁じています。
そして実務的にも、これをやった瞬間に立場が逆転します。こちらが加害者になり、明け渡しの話し合いそのものが進まなくなります。
立退料はいくらですか、という質問について
相場をお伝えすることはできません。金額を決める要素が多く、事案によって幅が大きすぎるためです。「家賃の◯か月分」といった目安が出回っていますが、それは賃貸借で、かつ条件がそろった場合の一例にすぎません。
実際には、次のような事情の組み合わせで決まります。
- 使用貸借か、賃貸借かここが最も大きく効きます
- どのくらいの期間住んでいるか
- 代わりの住まいを見つけられる状況か高齢、収入、保証人の有無など
- 建物の老朽化が進んでいるか老朽化は貸主側の事情を強めます
- これまでの経緯介護をしていた、修繕費を負担していた、など
金額を提示する前に弁護士に相談してください。一度こちらから出した金額は、後から下げることが実際上できなくなります。
まず今の状態でいくらになるのかを知ってから考える、という順番でも構いません。
あわせて読みたい鍵がない・中に入れない相続空き家を売るには中に入れない状態のまま売る場合の考え方も、あわせてどうぞ。
明け渡しを待たずに売るという選択肢
見落とされがちですが、人が住んだままの状態で売ることはできます。当社のような買取業者が買う場合、占有が付いたまま引き受けることがあります。
A明け渡してから売る
- 話し合い・交渉数か月〜年単位になることがあります
- 立退料の取り決め金額はこちらの負担です
- 明け渡し・引き渡し
- 売却価格は高くなりますが、そこに至るまでが長い
B占有が付いたまま売る
- 現状のまま査定
- 売買契約・引き渡し明け渡しを待ちません
- その後は買主が対応します
- 価格は下がりますそのぶんのリスクを買主が引き受けるため
Bを選ぶ方の理由は、金額よりもこの件から離れられることであることが多いです。相手が親族の場合、交渉そのものが大きな負担になります。固定資産税を払い続ける年数も止まります。
ただし、価格は下がります。どちらが向いているかは、相手との関係と、どのくらいの期間を許容できるかによります。
弁護士にお願いしたほうがよい場合
- 相手が明確に拒否していて、話し合いが止まっている
- 立退料の金額で折り合わない
- 相続人の間で、遺産分割そのものがまとまっていない
- 家賃を払っていた形跡がある賃貸借と判断されると、必要な手続きが変わります
- 相手が建物の修繕費などを負担しており、その清算が論点になっている
当社は不動産の買主であって、交渉の代理はできません。ご相談の中で弁護士に渡すべき状態だと分かった場合は、その旨をお伝えします。
ご相談の前に用意しておくと早いもの
- 登記事項証明書名義が誰になっているかを確認します
- いつから、誰が、どういう経緯で住んでいるかのメモ
- 家賃や生活費のやり取りがあったか通帳の記録があれば、賃貸借かどうかの判断材料になります
- 賃貸借契約書や、貸したときの書面があればその写し
- 相続人が何人いるか戸籍はこれからでも構いません
当社が確認していること
-
名義と持分
登記で、誰が何分の何を持っているかを確認します。相続登記が済んでいない場合は、その前提から整理します。
-
住んでいる人の立場
使用貸借か、賃貸借か、共有者か。金銭のやり取りの有無と金額を手がかりにします。
-
これまでの経緯
介護や修繕費の負担など、相手側の言い分になり得る事情を先に把握します。後から出てくると条件が動きます。
-
建物と敷地の状態
立ち入れない場合もあるため、外観・接道・越境を中心に確認します。
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占有が付いたままでも引き受けられるか
相手の年齢や生活の状況によっては、お引き受けが難しいこともあります。その場合も理由をお伝えします。
まとめ
- 家賃を払っていなければ使用貸借で、借地借家法の正当事由は要りません
- 家賃を払っていれば賃貸借で、明け渡しのハードルは大きく上がります
- 相続人の一人が住んでいる場合、当然には明け渡しを求められません。ただし持分を超える使用分の対価は請求できます
- 鍵を替える、荷物を出す、ライフラインを止める。これらは違法で、立場が逆転します
- 立退料の相場は示せません。金額を出す前に弁護士へ
- 明け渡しを待たずに、占有が付いたまま売る方法があります
どの立場に当たるのか分からない段階でも構いません。通帳の記録と登記事項証明書だけお手元にご用意のうえ、ご相談ください。
